私信


まず謝らなければならないことがあります。
一緒に動物園に行った時のチケットですが、どうやら失くしてしまったようです。記念にとっておく、というような約束をした覚えはありませんが、なんとなく申し訳ない思いです。
あなたとわたしとでは、あまり接点というか、タイプが似ているような関係ではなかったと思いますが、音楽の趣味に似ているところがあって、なんとなく話すようになった、という風に記憶しています。あなたの「冬の動物園がいかによいものか」という話に興味を覚えて、それであと何人かで真冬の動物園に繰り出したのが、実際に会った最初でした。とても風が強い日でした。


あと、一昨年の大みそか(!)に、「コートがほしい」という僕の買い物に付き合ってくれたのが、非常にありがたかったです。どちらかといえばモノトーンや暗いめの色の服に偏りがちな僕でしたが、「こういう配色の方が全体がきれいに見えるから」と、自分では選ばないような色のコートやマフラーを持って見せてくれました。今年の冬もそれを時々着ていたのですが、僕が外套や背広の類を部屋に干しっぱなしにしているせいで、タバコ臭くなっているに違いなく、それを知ったらあなたは顔をしかめるでしょう。










あなたと知り合った時期というのは、実はわたしにとって最悪の時期でして、仕事に見離され、信頼していたひとに裏切られ、いろいろなことが空回りしていました。その中で、あなたと話をしたり遊びに行ったりすることが、わたしにとって救いとなっていたはずですが、あなたにとってわたしは充分にやさしい人間ではなかったかもしれません。というか、あの頃のわたしは、常に神経を尖らせ、ちょっとしたサインにかみついてくるような人間でした。いつもなにかに取り乱しているわたしを見て、あなたがわたしから「友人としての」手を離していったのは、今となっては理解出来るような気がします。
人生とはままならないもので、ひとが出会ったり別れたりということには、我々の思い通りにならないところがあります。そんな風に、あなたとわたしとの間で起こったこともありふれたことなのかもしれません。だから、お互いが生きやすいように、離れた方がよいと思ったときに距離を置いたことを、誰も気にかける必要はないし、お互いが生きていれば、またどこかで交錯することがあるかもしれないし、ただ一切を時の流れに任せ、いつかまた笑って話が出来ることがあれば、そんな風に考えていました。


黙っていると神経質そうなのに、ちょっとしたことでよく笑う、そんなあなたのことが思い出されます。陳腐な言い方ですが、僕や、あなたと知り合った人びとが、そんな風に「それぞれにとっての」あなたのことを思い出し、我々の中であなたの存在が生き続けます。そういえばお会いしたのは冬ばかりで、夏の思い出がなかったことが心残りです。


こういうことを言葉にするのはなかなか難しく、またあまり誤解されたくないので言うのがためらわれるのですが、
わたしはあなたのことを友人として愛していましたし、いまでも愛しています。

季節の街に誰を思い
散っていく花に昨日までを
いろんな気持ちにももう二度と
会えないことを知る


季節の街に誰を思い
散っていく花に君を見てる
いろんな気持ちが街中で
誰かを待っている


空気公団「心ごころ」より