自虐の詩

「原作つき」の映画で、忠実に堕することもなく、大胆すぎる解釈に走ることもなく、ここまで過不足なく表現された作品もないだろう。
もちろん「マンガ的」表現は多いのだけど、あくまで「映画」というフレームでの表現に徹しており、それでいて原作に通じる「テーマ」をしっかり捉えている。エピソードの厳選が案外難しい話だと思うし、脚本段階で結構大胆に話を削っているのだろうが、話の展開に不自然さも不満もないし、確かにこれは「こういう話」なのだ。だから原作を知っているもの(僕)も楽しめたし、おそらく知らなくても、「ちょっとアレげな人々の、ドタバタしつつ最後にはホロリとさせる話」として、よくできた作品になっている。
ただし、全体的に話が薄く感じたのは否めない。元々がそれくらい「濃い」話であるから、それを2時間弱で表現しようとすれば、どうしてもあっさりした感じになってしまう。それをここまでやりきったのだから、この作品はこれで「成功」だと言える。


欲を言えば、「母親との再会」シーンが少し物足りなかった。自分を「捨てた」母親に対する感情(恋慕あるいは怨恨)が、そこにいたるまでに充分に出し切れてなかったのではないか。

―幸や不幸はどうでもいい 生きることには意味がある

幸江がこれに気づかされるのは、自分が「愛されなかった」母親から生まれてきた、という事実を再認識したからである。そして自分の周囲のかけがえのない人々、愛する人も「母親」から生まれてきた。そして自分もまた「母親」になる…。
どれだけ「不幸のどん底」にあるようでも、母親が存在を在らしめようとして自分を産んだ事実。それから人は逃れようもなく、またそれが、どれだけ自分の存在を否定しようとも、最終的に残る自分の(唯一の)存在根拠となることは疑いようがない。
このテーマが薄まってしまったのは、やはり残念だった。


にほんブログ村 映画ブログへ