空が燃えている


外から聞こえてくる爆発音が、体に響いてくる。
花火大会はもうすでに始まっている。


夜の支度(夕飯とか)のために買い物から戻ってきてから、家の中でだらしない格好でいたので、まだ身支度が済んでいなかった。
兄弟はそれぞれ独立しているので、夏に家族が集まるのは「花火大会」の日くらいだ。



下町独特の入り組んだ路地を抜けていく。多くの人々が花火の上がっている"川"の方へ向かっていく。
人いきれや夏の日差しを溜め込んだアスファルトのせいで、モンワリと熱を帯びた外気が体にまとわりつく。
途上に出ている露店のシロップのにおい、イカやキャベツの焦げるにおいが、改めて「夏」を想起させる。
次第に"音"は大きくなり、頭上に視線を泳がすと、家々の屋根越しに、赤や青や黄色の閃光の端っ切れが見えてくる。



30分くらい歩いて、川沿いの道に出た。花火はもう中盤に差し掛かっており、多くの人だかりを縫うように、視界のひらけた場所に出る。
さまざまな色、形の花火が、打ちあがっては、火花を散らしていく。
両親はさまざまな仕掛け花火を「あれは何の形かね」などといいつつ面白がっている。
連発が起こるたびに沸きあがる歓声。



兄が一服しに行くと言う。自分もそろそろニコチンがほしくなり、ついていくことにする。

「お兄ちゃんにちゃんとついていきなさい」

後ろから母の声が聞こえた。30前後の兄弟に向かって。


比較的人の密度の低い場所まできて、タバコに火をつける。去年の花火との比較以外に、兄との間に特に会話はない。


一服を終えて元の場所に戻ると、両親の姿が見えない。キョロキョロと見回していると、花火の連発が始まった。
空が燃えている。
両親は人だかりの中に紛れ込んでいたので、合流できるまでしばらく時間がかかった。