泳ぐために必要なこと

Nevermind

「浮くことができれば、泳げます」

別コースで泳いでいた僕の耳に、インストラクターの言葉が響いた。


僕自身は泳げるようになるまでに苦労した記憶はなく、最初から自然と水に浮くことができていたように記憶している。
だから、完全にその気持ちがわかるわけではないが、どうやっても水に浮くことができないというのは、それなりに苦労あることなんだろうと思う。
それでも、「水に浮く」、たったそれだけのことさえできれば、泳ぐことは本当にたやすくできてしまうだろう。たとえそれが、溺れているように見えるクロールだとしても。
インストラクターの訓練も経験もなく、もちろんプロの選手でもない僕にアドバイスできることはないけれども。


たとえば「生きること」。
「生きる」ために必要なことってなんだろうか。


朝起きたらお腹がすいていること。
そしていつもの食事がおいしく感じられること。


週末になったら、
または明日晴れたら、
やりたいことがあること。


もう一度、
またはいつか、
会いたい人がいること。


「たったそれだけのことですが、そのために僕は明日も生きていこうと思います」
それで充分じゃないか。


生きるのに特別な才能がいるような社会で、
僕は生きたいと思わない。