ある坊

おや あんなところにひざをかかへた坊がいるぢゃないか

死んだ魚のやうな うつろな目をした
ずいぶんとさびしさうな 坊がいるぢゃないか


坊よ
どんなうらぎりや 無関心に
戸惑ひ さいなまれやうと
よのなかをうらんではいけないよ
まわりをねたんではいけないよ


一筋の たよりなひやさしさを
けっして うたぐってはいけないよ


あヽ 坊よ
お前を両の手で抱きしめてやれたら
お前の胸に巣食っている
「よくない考へ」や「恨み言」を
まるまる受け止めてやれたら


おもむろに 坊は顔をあげた
それは


…僕自身だった


僕はいい子だ!


林静一「赤色エレジー」より

赤色エレジー (小学館文庫)

赤色エレジー (小学館文庫)


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