bice


bice | Singer-songwriter biceサイト


biceは、くすぐったくなるようなウィスパーボイスと、ほのぼのとしているようでどこかシニカルなサウンドで、日本のポップミュージックの中でも稀有な存在だったと思う。
彼女が「bice」という名前で世に出たとき*1は、確か90年代の終わりだったか、その頃の日本のポップス・サウンドを意識した曲作りをしていた印象がある。享楽的といっていいほどテンション高めで、それでいていきどころのない熱を持て余したような痛々しい音が街にあふれていて、その頃のbiceサウンドも、そういった時代の雰囲気に合わせたような、気持ちが張り詰めいている感覚があった(「あくび」や「スニーカー」)。

bice

bice

その後、インディーズを経てレーベルを変える過程で、彼女の歌は明らかに変化していく。
前作よりブランクを開けて発表された「ツイオク」は、それまでとは一線を画した作品で、最初に耳にした当初は、本当に同じひとがつくったのか、と驚いた記憶がある。
ツイオク

ツイオク

キラキラとした音使いもなければ、気持ちを盛り上げるようなトリックもない、しかしひとつひとつの音を繊細に紡ぎ、また日常にありふれたごく小さな情景を丁寧に織りあげた歌に、強く心が惹かれた。
「音が変わった」と書いたが、彼女がいわゆるメジャーデビューをする前にインディーズで発表したミニアルバムを聞けば、そちらの方が彼女の本来の「音」だということに気づかされる。その過程で、自分の「音」を取り戻していった、ということなのかもしれない。
SPOTTY SYRUP

SPOTTY SYRUP

カバー曲*2や「影響を受けた音楽」からわかるように、60's〜80'sの洋楽から幅広くインスパイアされ、豊かな音楽の世界を持っていた。そういえば僕がZombiesやCircleを知ったのは彼女のプロフィールだった。
その後の彼女は、3枚アルバムを発表して入るが、どちらかといえばパフォーマーというより作家としての活動の方が多くなっていく。そのキャリアの部分については、僕は実は全く知らない。おそらくそちらの方も素晴らしいのだろうけど、率直に言ってあまり興味がわかない。彼女の歌というのは、彼女が唄うことによって一番魅力が発揮される、と決めつけてるところがあるのかもしれない。だからこそ、いつになるのかはわからないけど、彼女自身による次の作品を非常に心待ちにしていた、そんなミュージシャンのひとりだった。
その年齢を考えれば、これからもっと素晴らしい音楽を発表してくれたはずだし、手前勝手な言い方になるが、非常に残念である。ただただ、安らかに…

*1:それより前に別名義でデビューしていたようだが、その頃のことは僕はよく知らない。

*2:「How deep is your love」や「Time after Time」など。