On and On


たむらくん(仮名)がなぁ たむらくん(仮名)がなぁ


彼女が"THE 幸福"というような顔で話す瑣末なエピソードに「へー、そうなんだー」とか適当な相づちを打ったり、いちいちうなずきながら聞いている。そうそう、ささやかな笑顔も忘れずにね。


彼女は本当に誰とでも仲良くなれるタイプで、その小さな体にどれだけ元気が詰まっているのかというほど、バイタリティにあふれていた。なにかの拍子にバイトのヘルプを頼まれて、ブーブー文句をたれるような自分が恥ずかしくなるくらいだ。それでいて勝気なところがあるから、僕がちょっといじけたことをいうと、叱り飛ばすような人だった。叱るだけでなく、話を聞いてくれて、ちゃんと理解も示してくれるから、よく悩みの相談もしてもらっていた。


そんな彼女も"たむら(仮名)"の前ではヘロヘロな感じになってしまう。いつものハキハキとしたしゃべりかたではなく、鼻にかかっているような、甘ったるい声色になる。その"ネバネバ〜"とした感じが、なんとなく"水飴"を連想させた。ここまで「恋をしている」というのをダダ漏らしにしている奴も珍しいよな、と思っていた。


夏休みに帰省して、戻ってきてすぐに、彼女が"たむら(仮名)"と二人で歩いているところを見かけた。幾度となくその光景を目にして、「あ〜そうなんだ」と確信した。確かめたわけじゃないけど。いやでも、周囲には(僕が帰っている間に)認識されていたみたい。





すっかり着込まないとしんどい季節になり、吐く息も白くなった頃、食堂にポツネンと座っている彼女を見かけた。すいている時間帯だったし、さりげなく正面に座ってみた。僕に気づいて、うつむいていた顔をあげると、


「あまり好きじゃなかったかも」て言われてん

と言った。
ふーん、そうなんだ」相変わらずあいまいに返事をする自分。笑ってるつもりだったけど、口の端が歪んでいたかもしれない。「伏目がちな人ってまつ毛が長く見えるんだなあ」とかどうでもいいことを考えながら、彼女が話すことをずっと聞いていた。ずっと、ずっと聞いていた。


学生時代を通じて、彼女とはずっと友達でいた。卒業してからも、時々連絡を取ったり、時間があったら一緒に食事をしたりしていた。その間、僕はずっと、


このやわらかくてあまい匂いも すてきなおしりも
ずっと"ボクノモノ"にはならないんだろうなあ

と考えながら、彼女の話を聞いていた。もちろん、ささやかな笑顔も忘れずにね。


On and on...
I just keep on trying
and I smile
when I feel like dying
On and on...


Stephen Bishop - On and On


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